森絵都さんの「カラフル」を読みました。
内容・あらすじ
主人公はとある魂。
「ぼく」は前世で罪を犯したため、輪廻の輪から外されそうになっているところだとのこと。
ところが、「ぼく」は幸運なことにチャンスを授かります。
もう一度下界に戻り、誰かの体の中に入り、自分の罪を明らかにすれば、輪廻の間に戻ることができるとのこと。
いまいちやる気のない「ぼく」でしたが、下界におり、中学生の男の子の中に入ります。
目が覚めた病院には、家族が、事なかれ主義の父親と、不倫している母親と、意地悪なお兄ちゃんがいました。
天使のガイドに導かれて、ぼくの下界でのインターンが始まります。
感想
最初は突飛な出だしに面くらうものの……読後、設定の必然性に納得
森絵都さんの小説を読むのは二冊目です。
1冊目に読んだ「ミカヅキ」は全くファンタジー性のない小説だったので、今回は出だしから天使がでてきて少々面食らいました。
出だしの設定はややファンタジー的な要素があるものの、小林真となった魂が人生のインターンを過ごす様子はリアルでした。
家族だからと言う期待感のない、客観性と割り切り
息を吹き返した小林誠が初めて出会う家族は、彼の目にはとっても良い人達に映ります。
ところが、日常生活がもどり始めるにつれて、家族のアラが見えてきます。
事なかれ主義で何も考えていないように見える父親。
フラメンコの先生と浮気する母親。
真が抱えるコンプレックスをからかう兄。
加えて、口下手な真に唯一言葉をかけてくれる初恋の女の子は、援助交際をしています。
理想の人間なんてどこにもいなくて、美点もあれば欠点もある人間が家族。
しかし、「父」が、「母」が、「兄」が、そして「初恋の君」が、理想の「父」、「母」、「兄」、「初恋の君」ではないというギャップを受け入れるのは、なかなか難しいことです。
家族だと思えばこそ、期待する理想像があるけど、真にとって彼らは一時的に触れ合うただの他人。
この客観性と、わりきりのせいでしょうか。
家族との関係はすこしずつ改善し、真には仲の良い友人ができ、受験勉強という真剣に取り組む何かができます。
初恋の君に関しては、彼女の人間をもっと見てみたいというと思うようになります。
そして読み終わると、当初の設定の合理性、必然性に感嘆します。
おすすめ度★★★★★
真と周りの人の人間関係が改善していく様子が、成長物語のようで元気が出ます。
特筆すべきは、ぼくが前世で犯した罪とは何か?この謎への回答。
設定が絡んだ、この謎への解が美しくきまっています。
アニメ化・実写化されているのも、大納得の作品でした。