どんぐり君とおにぎり君のママの読書日記

アラフォー、2男の母のブックレビューです。読んだ本の簡単な内容・あらすじ・感想をメモしてます。

平野啓一郎さんの「ある男」を読みました。

平野啓一郎さんの「ある男」を読みました。

 

ある男

ある男

 

内容紹介

愛したはずの夫は、まったくの別人であった。
「マチネの終わりに」から2年。平野啓一郎の新たなる代表作!
弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。
宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。
里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。
人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。
「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。
人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品

(Amazon内容紹介より)

感想

過去の傷を追った分人から、新たな分人へ

過去の傷を隠すために、人の名を語る。
宮部みゆきさんの「火車」を思い出します。

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

 

本書の「ある男」は、ただただ、普通の人生を歩むために、他人の戸籍で生きます。
捨てた戸籍と譲り受けた戸籍は別の分人。
平野さんの分人主義が表された作品と言えそうです。

城戸さんの分人が興味深い

本書は、「ある男」の人生の軌跡を明らかにしていく、ある意味ミステリー的要素を含んだ作品です。
本書をミステリーと考えると、「ある男」が犯人で、城戸は探偵役です。
冒頭には、城戸さんは語り部である旨記されており、明確に分人化した「ある男」にスポットをあてた作品ではありますが、城戸さんにも分人化が見られます。
美涼との分人は知的で、紳士的。
里枝との分人はとても真面目なたよりになる弁護士さん。
調子が悪いのは家族の分人、夫として、父としての分人です。
特にこどもにきつい言い方をしてしまい、直後に抱きしめる、これでは虐待、DVと同じではないか、と自分を振り替えるシーン、ハッとさせられます。
真面目で頼りになる弁護士さんに、よもやDVを疑う分人が現れる可能性もあるというところが、リアルです。
美涼さんに気持ちがある、美涼さんと過ごしたい、美涼さんといるときの自分が心地よさそうです。
この分人の存在が大きくなっているのが感じられます。

新幹線を降りるか、降りないか

美涼との移動中、城戸は名古屋行きの新幹線下車時、そのまま降りずに2人でどこかに行こうかと逡巡します。
ここで選択肢を諦めるところがなんともいえず、でも諦めるからよいんでしょうね。
マチネの終わりの2人ほどの劇的な運命こそ感じさせませんが、出会いや、自然な会話の噛み合い方、お互いの好感のいだき方、現実世界のあちらこちらに有り得そうな「運命」的出会い。
そして、諦め。
そういう可能性もあり得たんだと思いつつ、新幹線を降りるところはちょっと悶えますが、リアルです。
前後して、家庭の分人を諦めず、真摯に反省するところに城戸さんの人物を感じさせます。

おすすめ度 ★★★★

エンタメとしてはマチネの終わりに、テーマの明快さとしては、ある男と感じました。
ミステリー要素があり、一気に読ませられました。

 

ある男

ある男

 

 平野さんの分人主義についての著書を読むと、また一味深くなります。