どんぐり君とおにぎり君のママの読書日記

アラフォー、2男の母のブックレビューです。読んだ本の簡単な内容・あらすじ・感想をメモしてます。

椰月美智子さんの「フリン」を読みました。~既婚者の恋を、それが日常の連続であることを自然に描いた連作集

 

椰月美智子さんの「フリン」を読みました。

 

フリン (角川文庫)

フリン (角川文庫)

 

 内容・あらすじ

高校生の真奈美は、カレと入ったラブホテルで、自分の父親が同じマンションに住むOLの葵さんと一緒に歩いているのを目撃してしまう(「葵さんの初恋」)。元カレと逢瀬を繰り返す主婦、人生最後の恋に落ちた会社員、壮絶な過去を持つ管理人の老夫婦……。ある川辺に建つマンションを舞台に繰り広げられる反道徳の恋。愛憎、恐怖、哀しみ……様々なフリンの形を通じて、人と人の温かさ、夫婦や家族の関係性を描ききった連作短編集。(Amazon内容紹介より)

感想

同じマンションに住む住民たちの様々な形の既婚者の恋をめぐる連作集

一番最初の話は高校生の真奈美が主人公。
真奈美は彼氏といったラブホテルで、同じマンションに住む憧れのお姉さん、葵さんと自分のお父さんの後ろ姿を見かけます。
一体2人はどういう関係なのか。
葵の口から真実の父への思いが語られます。
真奈美の目からすれば、憧れのお姉さんだった葵は、ちっぽけなことで、恋に落ちてしまう1人の女の子でした。
憧れのお姉さん像がリアルな女の子に変わっていく感じが印象的でした。

2話目は主婦であり、一児の母である友美が主人公。
友美は高校の時の同級生、はじめてお付き合いをした明仁が、たまたま同じマンションに住んでいることに気づきます。
いかにもなシチュエーションですが、フリンが発生する状況として納得感はあります。
友美が、最後に起きた事故を因果であると静かに受け止めるのが印象的。

3話目の主人公光正は、すでに結婚を控えた子どもがいるお父さん。
職場で出会ったアリスに恋した光正は、妻と別れることを選びます。
さばさばした感じの奥さんと、不倫のはずがさらさらと描かれているのがよくよく考えると不思議な感じ。

4話目の主人公は、高校生・章吾の母、美代子。
息子の友達に、ほのかな恋心を抱きます。
プラトニックな異性へのあこがれは、生活に潤いをもたらします。

5話目の主人公は32歳の宗太郎。
宗太郎は、高校の同級生、ふわふわした女の子のままであり続けるあかりと結婚しています。
あかりはふらふらと元カレのいるフィジーに遊びに行き、宗太郎とあかりは、お互いそれでも何もないということに納得しているようなふりをします。
宗太郎は、友人の浮気話を聞いているうちに、そして先輩の離婚話を聞くうちに、自分が本当はどうしたいのか、気づいていきます。

6話目はマンションの管理人である宮崎夫妻の話。
この話が本連作の中、はじめて不倫のどろどろを感じさせます。
ただ、彼らの話は過去の話の回想であり、今はそれなりに過去を過去として受け止めて今を生きている感じに、時と共にどろどろが浄化された感、やはりさらりとしたものを感じます。

既婚者の恋を、それが日常の連続であることを自然に描いた作品

どの作品にも共通するのは、既婚者の恋がごくありそうな日常の中にあり、すごく特別なことではない感じがするところ。
そう思わせるのは主人公たちの心情の動きに無理がなく、納得感があるからである気がします。
やはり、著者・椰月さんの人物の書き方にうまさを感じます。

おすすめ度★★★

印象に残ったのは1話目と6話目。
意外だったっが3話目。
フリンというタイトル通り、どの作品も既婚者の恋をモチーフとしていますが、あくまで日常感がある、連作集。

フリン (角川文庫)

フリン (角川文庫)