椰月美智子さんの「伶也と」を読みました。
内容・あらすじ
二人が迎えた結末は、1ページ目で明かされる。恋愛を超えた、究極の感情を描く問題作!
理系の大学院を出、メーカーで働いていた31歳の瀧羽直子は、同僚に誘われて初めてライブに参加したその日、ロックバンド「ゴライアス」のボーカル、伶也と出会った。
伶也は彼女の全てとなり、持てるお金、時間のすべてを注ぎ込み、スターダムにのし上がっていく伶也を見守り続ける直子。行きつく先は天国なのか、地獄なのか?
失われていく若さ、変わっていく家族や友人たち……。四十年後、彼女に残ったものは一体なんだったのか。
71歳で伶也とともに餓死するまで、彼のためにすべてをなげうった直子の狂おしいほどの愛と献身の生涯を描く。「別册文藝春秋」連載時より異例の人気を誇った傑作長編。(Amazon内容紹介より)
感想
私だって直子になり得る
ロックバンドのボーカルのあの人。
ドラマに出てくるあの俳優。
はたまたジャニーズの彼。
芸能人を心から「かっこいい!」と思っことがない人の方が少ないのではないでしょうか。
人気絶頂になる前の彼に、小さなライブハウスで出会ってしまったら。
もし、そこで彼と目が合ってしまったら。
情報収集して、ちょっと人より先回りして、彼の行きつけの店で言葉を交わすことができたら。
そしてLINEを交わすことができたら。
このifの積み重なりが「あり得る」と思え、そして直子と伶也とが親しくなるのもあり得ると思えてしまえます。
実際のところ、時間もお金も惜しまずに、Twitterで情報収集して、とことん出待ちをして、毎日それを積み重ねていけば、芸能人のあの人と言葉を交わすことは可能なのかもしれません。
実際に多くの人がそこに至らないのは、自分のリソースを、そこまでのお金と時間とを費やすという覚悟ができないから。
全てを投げ打つ人に出会えてしまった直子が幸福なのか不幸なのか。それを考えさせる小説です。
伶也が落ち目になってからが始まり
人気絶頂だった伶也ですが、モデルと結婚し、子供もうけ、人気に陰りがさし、その後、薬物でつかまり、芸能人にありがちな転落ルートを辿っていきます。
この物語は、さらにその後、彼の死までを描いています。
芸能人が落ちていくまでを描いた話は読んだことがあるように思いますが、その死の直前まで描いた物語は初めて読んだような気がしました。
最後の2人の暮らしは華やかささえないけれど、穏やかで満ち足りたものに見えます。
おすすめ度★★★★
死の直前の、2人の穏やかで満ち足りた暮らしが印象に残りました。
人生を投げ打っても良いという人に出会えて、その人とは結ばれないことは一見バッドエンドのように見えます。
しかし、人生を投げ打っても良いという人に出会えたことこそが奇跡で、その人とのどのようなかかわりをもつのがが幸せかは、人生が終わるまでわからないのかもしれないと考えさせられました。
出会い、結婚、家族という定型の幸せの形にとらわれ過ぎているのかもしれません。