どんぐり君とおにぎり君のママの読書日記

アラフォー、2男の母のブックレビューです。読んだ本の簡単な内容・あらすじ・感想をメモしてます。

椰月美智子さんの「しずかな日々」を読みました。~ぼくは転校しない。そう決めた少年がおじいちゃんと友達と過ごした、確かな夏。

 

椰月美智子さんの「しずかな日々」を読みました。

しずかな日々 (講談社文庫)

しずかな日々 (講談社文庫)

 

内容・あらすじ

おじいさんの家で過ごした日々。それは、ぼくにとって唯一無二の帰る場所だ。ぼくは時おり、あの頃のことを丁寧に思い出す。ぼくはいつだって戻ることができる。あの、はじまりの夏に――。おとなになってゆく少年の姿をやさしくすこやかに描きあげ、野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞をダブル受賞した感動作。(Amazon内容紹介より)

感想

「普通の」男の子えだいちのひと夏の思い出

物語は、4月に始まります。
新しい学年(小学校5年生)に進級して、おずおずと教室に入る主人公の僕。
出席番号が早いぼくは早めに自己紹介をすることになります。
名前を言って、よろしくお願いします。
それ以外言うことを見つけられません
僕は、自分のことを、「何の取り柄もなく、目立つことのない冴えない男子」と認識しています。
「昼飯食ったら空地で野球しようぜ」
そんな僕の日常は、押野というお調子者で人気者の同級生の一言で色彩に富んだものに変わっていきます。
普通の大人しい男の子が主人公であること、身近に感じます。

えだいちの家の事情

えだいちの家は母子家庭。
えだいちはそのことに少し引け目を感じています。
やがて、押野も、えだいちと同じく母子家庭であることがわかります。
金銭的なわがままを言うことに少し遠慮があったえだいちはお母さんに言います。
「バットが欲しい」
押野との出会いをきっかけに、えだいちは少しずつ、自分の思いを口にできる子になっていきます。
このあたりは彼の成長物語で読んでいて心地良いです。
そして転機が訪れます。

おじいちゃんと暮らすという選択

ある日、えだいちは母親から告げられます。
お母さんが仕事を変わること、引っ越しをすること、それに伴ってえだいちは転校しなければならないこと。
少し前のえだいちだったら、お母さんに大人しく付いていったかもしれません。
でも、押野と出会った後のえだいちは、自分の気持ちを口にします。
「転校したくない」
おかあさんは、もう一つの選択肢を提示します。それが「おじいちゃんと暮らす」でした。

おじいちゃんとの生活

そして、ここからおじいちゃんとの生活が始まります。
おじいちゃんとの生活はなれないところもあるけど味わい深いものがあり、 何より母親との生活にはなかった、健全さがあります。
友人たちはおじいちゃんとの暮らしを「夏休みの田舎での暮らし」と称します。
新しい友人ができ、工場探検し、お泊り会をし。

えだいちのひと夏は歴史に残る劇的な事件こそおきないけど、貴重な1ページになります。

おすすめ度★★★★

おじいさんが保護者として理想的。
ぼくとおじいさんとの距離感がちょうどよいと感じました。

もし、ぼくがお母さんに従い、大人しく転校していったら、、、
ぼくの人生はどうなっただろうかと考えます。
(そこには何か、暗い未来があったような気もします。)

ぼくが、転校しないで、おじいちゃんと暮らすという選択肢を選んだことがこの物語のキーポイント。
こどもが転校しないという選択肢を選べることは、実際にはありそうでなさそう。
お母さんも心のどこかで、そのほうが良いかもしれないと思ったのかもしれませんが、選択肢を提示したことはあっぱれです。
そして、ぼくがその選択をできたのは押野というかけがえのない友人との出会いがそのきっかけであり、確かに人生は押野みたいな健全な存在で大きく変わるだろうなと感じました。

後日談のぼくの暮らしは、大出世したことも、大恋愛したことも書かれていないけれど、確かなもので、その静かな落ち着きぶりを形成したのは、おじいちゃんと押野くんの存在なんだろうなと思いました。

 

しずかな日々 (講談社文庫)

しずかな日々 (講談社文庫)