どんぐり君とおにぎり君のママの読書日記

アラフォー、2男の母のブックレビューです。読んだ本の簡単な内容・あらすじ・感想をメモしてます。

小川糸さんの「食堂かたつむり」を読みました。~料理とは祈りそのもの。素朴な料理に込められたストーリーと想い。

 

 小川糸さんの「食堂かたつむり」を読みました。

食堂かたつむり (ポプラ文庫)

食堂かたつむり (ポプラ文庫)

 

内容・あらすじ

主人公は20代の女の子、倫子。
倫子はインド人の恋人と同棲していたものの、恋人に全てを持ち逃げされ無一文になってしまいます。
あまりのショックに声を失った倫子は15の時に飛び出した実家に戻ります。
喋れなくなってしまった料理人の倫子は、折り合いの悪かった母に頼み込み、実家の物置を改装してレストランを始めます。
名前は食堂かたつむり。
食堂かたつむりはメニューが決まっていません。
食堂かたつむりを訪れるお客さんは、事前に倫子と面談し、倫子がそのお客さんにあったメニューを考えるのです。

探偵さながらお客さんの心に寄り添う料理を作ってくれるレストランのお話。

感想(ネタバレあり)

料理とは祈りそのもの

最初のお客さんである熊さんに作るざくろカレーに始まり、お妾さんに作るサムゲタンスープ、そして、ラストの見せ場はエルメスの全身を使った豚料理。
素材を生かし、それをいかにも美味しそうに組み合わせ加工した料理の描写はとても印象的です。
調理のプロセスは、時には材料となる動物を殺すシーンから描かれ、食べることは命をいただくことそのものと感じさせます。
柚月麻子さんもとても食べ物の描写が上手な作家さんで、柚月さんの著書には「食べてみたい!」と思わせるようなリアルな食べ物が登場しますが、小川さんの小説に出てくる食べものはそれとはまた一味違います。
小川さんの小説にでてくる食べ物からは、素朴な感じ、命をいただいているという感じ、じわっと腹から温まる感じが伝わってきます。

エルメスを使った料理の全力感

倫子はお客さんに料理を作る前にお客さんと面談し、お客様のことを思い、その人のためだけに誠実に心を込めて工夫された料理を作ります。
特にラストのエルメスの全身を使い、世界の料理を作るシーンの全力投球感が圧巻でした。
倫子は一緒に暮らしてきたエレメスへの思い、余命限られたおかんにできることをすべてしたいという思いをこめ、エルメスの全身を使い、世界各国の料理を作ります。
これ以上はできないほどのその打ち込みようは、読んでいて疲れてしまうほど。

実は本書は長年創作活動を続けていた著者が、「もうこれでだめだったらやめよう」という思いで、大好きな食べ物をモチーフに書いた本とのこと。
このシーンには、この小説ですべてを出しきりたいという著者の思いもこめられているのかもしれません。
全力を出しきった感が伝わってきます。

絵本みたいなものがたり

口がきけなくなった女の子が実家に帰ってくる。
くまさんと一緒にレストランを作る。
レストランでは事前にお客さんとお話して本当にその人が作りたいものを作る。
レストランはそう簡単にはたてられないとか、そんなんじゃ採算とれるわけないとか、冷静につっこむとリアリティーのない点を含みつつ、やさしく進むものがたりに、どこかファンタジー性を感じました。

おすすめ度 ★★★

ライオンのおやつに続き、食堂かたつむりを読んでみました。
傷を負った若い女の子が、都会から田舎に来る。
食べ物に込められたストーリー。
ファンタジー性。
このあたりに惹かれました。
少し疲れた時にじわっときく、癒し小説でした。

食堂かたつむり (ポプラ文庫)

食堂かたつむり (ポプラ文庫)