小川糸さんの「つるかめ助産院」を読みました。
内容・あらすじ
夫が姿を消して傷心のまりあは、一人訪れた南の島で助産院長の鶴田亀子と出会い、予想外の妊娠を告げられる。家族の愛を知らずに育った彼女は新しい命を身ごもったことに戸惑うが、助産院で働くベトナム人のパクチー嬢や産婆のエミリー、旅人のサミーや妊婦の艶子さんなど、島の個性豊かな仲間と美しい海に囲まれ、少しずつ孤独だった過去と向き合うようになり――。命の誕生と再生の物語。(Amazon内容紹介より)
感想(ネタバレあり)
絵本の中の理想の産院
もしも、出産の途中で何かがうまくいかなくて、帝王切開に切り替えなければいけない事態になったら、とか、感染症の心配とか、現実的なリスクを気にし出したら、離島の産院でゲルの中での出産なんてありえない。
そうは思いつつも、臨月を美しい海が広がる砂浜を歩いて過ごしたかったなぁと思うし、陣痛中にまりあの手当てを受けてみたかったなと思いました。
現実問題はさておき、絵本の中の理想の産院として、憧れます。
ただ、実際のところは産院がない離島が多く、離島の妊婦さんは、離島から産院のある島や本土に渡って出産するという問題があるようです。
三度、傷心の若い女の子が主人公
同棲していた恋人に去られ、無一文になった恋人倫子(食堂かたつむり)、余命わずかと告げられて、全てを整理してホスピスに向かう雫(ライオンのおやつ)、そして、夫が失踪して傷心のまりあが本作の主人公。
作中にでてくるように、世間に傷を負っていない人などいない。
誰もがその傷を隠して生きています。
小川糸さんの小説は現実の世界で傷を負って、ちょっとお疲れ気味の方が異世界に行き、読後に主人公と共に少し前向きに元気になれる癒し小説と感じました。
本作では主人公のまりあが、最後はつるかめ助産院を去って元の世界に戻ってくるところが、他の二作品と違います。
なぜ小野寺君は失踪したのか
まりあの傷はまりあの出自の話に帰着し、小野寺君との関係、出会いとか2人の生活とか、なぜ小野寺くんが失踪するまで何かを抱えてしまったのかとか、そのあたりはもう少し読んでみたかったなと感じました。
そういえば、「食堂カタツムリ」でも、主人公の倫子がなぜインド人の恋人に去られたのか、その辺りは細かく書かれていなかったような。
こういう詳細のなさも、ファンタジーな雰囲気を感じます。
book.rikejo-c.jp
おすすめ度★★★
離島の産院のイメージを結晶化した小説といえるかもしれません。
南の島に行きたくなり、住んでみたくなります。
漫画化、映像化された。