小川糸さんの「ライオンのおやつ」を読みました。
著者と本書について
著者の小川糸さんは1973年生まれ。
2008年のデビュー作「食堂かたつむり」から、30冊の本を出版されています。
著者のホームページでもデビュー作食堂かたつむりとなっていますか、Wikipediaによれば実際は大学卒業後、就職退職、アルバイトのかたわら、創作活動を開始されていたようです。
著者のヒット作となった「食堂カタツムリ」は「もうこれでだめだったら諦めよう」と好きな料理を題材として執筆した小説とのこと。
「食堂かたつむり」は2010年に映画化されています。
その他、「つるかめ助産院」が2012年に、「ツバキ文具店」が2017年にドラマ化されています。
小説のほか、エッセイも多く出されています。
小川糸さんのさんのHPに作品紹介があります。
HP全体が、著者と著作のイメージ通り、かわいらしい感じです。
「ライオンのおやつ」は2019年1月出版。
現在、著者はドイツにて生活をしており、本作「ライオンのおやつ」もドイツで執筆されたとのこと。
内容・あらすじ
人生の最後に食べたいおやつは何ですか――若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた――食べて、生きて、この世から旅立つ。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。(Amazon内容紹介より)
感想
理想の最期が描かれた作品
30代前半にして余命わずかと告げられた主人公の雫は、瀬戸内海の島にある海の近くので残りの人生を過ごすことを決めます。
そして、自分の周りの身辺整理を綺麗にして家を引き払い、知り合いにはもう見舞いには来ないでほしいと告げ、ホスピスにやっていきます。
ホスピスには雫の他にも余命わずかと告げられた人達がいます。
雫は先輩達の旅立ちを次々と目にし、考えます。
一日、一日をちゃんと生きること。どうせ人生はもう終わるのだからと投げやりになるのではなく最後まで人生を味わい尽くすこと。イメージしたのは昔父と住んでいた町の商店街にあったパンやさんのチョココロネだ。端から端までクリームがぎっしり詰まったあのチョココロネみたいに、ちゃんと最後まで生きることが今の私の目標だった。
そして、雫はチョココロネをイメージし、チョココロネのように、最後までしっかり生きることを決意します。
ライオンの家に来てからの雫はご飯をしっかりと味わい、ずっと憧れていた犬を飼うという夢を遂げ、ちゃっかりデートもして、まさにぎっしり生きたように見えました。
当然思い残すところはあるだろうけれど、もし余命がわずかと宣告されたなら、こういう風に死に向かうのが理想なのかもしれないと思いました。
食べ物の思い出の強さ
雫がライオンの家にきて、初めての朝食の朝の小豆粥。
タケオさんが選んだおやつ、豆花。
いかにもやさしそうなお味の食べ物の数々が、温かく印象に残りました。
小川糸さんの作品のキーワードは食べ物。
特に、生と死がテーマである本作に登場する食べ物は、食べること=生きることそのもの、という印象を受けました。
登場人物たちのおやつにまつわる思い出にも、人生が凝縮された感がありました。
おすすめ度★★★★
もし準備して死ぬのなら……と考えてしまう小説。
そして、今、端から端までクリームが詰まったチョココロネみたいに生きられているだろうか、とふと考えさせられます。
あたたかくやさしい食べ物のイメージの作品でした。