恩田陸さんの「夜のピクニック」を読みました。 2019/10/21
内容
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。(Amazonより)
感想
清々しい登場人物と青春。正統派の面白さ
主人公は高校3年生の貴子。
母子家庭で育った自我のしっかりした、少女。
貴子と仲が良い2人の友人も、それぞれしっかりした考えを持ち、好み思った女の子。読んでいて好感を持てる。
貴子の義兄弟である融も、その友人の忍もまた、筋の通った男の子。
主人公とサブキャラが、それぞれに清々しく魅力的です。
彼女達の中には、恋をしている人もいますが、実は本書ではカップルは誕生しません。
しかし、これぞ、青春という本。
中学校や高校の時の、特別なイベントの夜の雰囲気を、つい懐かしく思い返してしまう作品です。
恋愛に絡まない貴子が主人公
貴子の友人はそれぞれ恋をしています。
アメリカに渡ってからラブレターを出す、杏奈。
戸田忍には思いをさせつつ、家出てないと決めている、千秋。
恋ではなくて義兄弟のことが頭をしめている貴子が主人公なのが、よいなと思いました。
千秋の告白
いいの。そう思っているだけで。告白したからってどうにかなると思ってないし、別にどうにかなりたいわけではないし。これから卒業するだけでしょ。今そう思える相手がいるだけでいいんだよ。
なんというピュア。しかし、好きだと思っているだけで、そこから付き合いに発展させ良うとは思わない、
中高時代のこの心情。どこか心当たりがある気もします。
好きという感情には答えがない(中略)自分の中で大事に抱えてウロウロするしかないのだ。
どこにも持って行きようもない想いのどうしようもなさ。これぞ青春文学。
そして、本書の主人公は恋愛感情を、今のところは持っていなそうな貴子。
しかし、貴子は融に、片思いにも似た複雑な思いを抱いています。
他人に対する想い。
恋愛だけではなく、「思いが通じる」「思いが届かない」感じ。
青春時代の、そのもどかしい感じがさわやかに伝わる小説でした。
おすすめ度 ★★★★★
正統派に面白かったです。
青春ってもっと暗い、鬱蒼としたところもあるかもしれませんが、本書は、中高時代の青春のキラキラした結晶を、鮮やかにすくい取った小説と言えるかもしれません。