どんぐり君とおにぎり君のママの読書日記

アラフォー、2男の母のブックレビューです。読んだ本の簡単な内容・あらすじ・感想をメモしてます。

森絵都さんの「みかづき」を読みました。~用務員室からはじまる、塾づくりに奔走した家族の物語。

 

森絵都さんの「みかづき」を読みました。 

みかづき (集英社文庫)

みかづき (集英社文庫)

  • 作者:森絵都
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: Kindle版
 

 
内容・あらすじ

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」 昭和36年。人生を教えることに捧げた、塾教師たちの物語が始まる。胸を打つ確かな感動。著者渾身の大長編。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。 阿川佐和子氏「唸る。目を閉じる。そういえば、あの時代の日本人は、本当に一途だった」 北上次郎氏「圧倒された。この小説にはすべてがある」(「青春と読書」2016年9月号より) 中江有里氏「月の光に浮かび上がる理想と現実。真の教育を巡る人間模様に魅せられた」 驚嘆&絶賛の声、続々! 昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編。(Amazon内容紹介より)

感想

物語は用務員室から始まる

大島吾郎は小学校の用務員。
吾郎は、用務員室で落ちこぼれの子供達に勉強を教えていました。
大島教室は、教室では授業が理解できない子供達のセーフティーネット。
そんなある日、大島教室に蕗子がやってきます。
吾郎は気づきます。
蕗子はわからないふりをしているだけだ、本当は教室での授業を理解している。
だとしたら、なぜ用務員室に?
蕗子が用務員室にやってきた理由は、「母親に言いつけられたから」。
蕗子の母親はこれから塾を開こうとしていて、塾の講師に、吾郎をスカウトしようとしていたのでした。
この小説は昭和から平成にかけての塾に焦点を当てたものですが、
その端がにその始まりは用務室。
ひっそりと、分相応に、自分ができる範囲で困っている子供を助ける。
その精神とその象徴を用務員室に感じます。

後にこの精神は五郎の孫の一郎に引き継がれたようです。
一郎は、貧困家庭、特にシングルマザーの子供達をターゲットとした、ボランティアの支援教室を作ろうとします。
孫の一郎が、現代の用務員室を再生させたように見えました。

八千代塾の台頭

大嶋吾郎はやがて蕗子の母千秋と結婚します。
2人の間には次女の蘭、三女の菜々美が誕生。
家族が増え千秋は八千代塾にのめり込んでいき、塾は発展を遂げます。
しかし、塾に突っ走る千明と吾郎の間には、溝が深まっていきます。
そして、最後には、吾郎は八千代塾を去ります。
ここまでは物語は吾郎の目線で語られています。

千秋は塾に対しでも、熱い想いを抱えていて、どんどん自分で決め、どんどん自分で進めていきます。
吾郎は、仮にも塾長の俺に相談もせずに、と思います。
そして、2人の心は徐々に離れていきます。
うまく吾郎に相談できず、そしてうまく吾郎を立てられない千秋。
他の女性とも関係をもつ吾郎。
もっとうまくやれたのではと思うところもありますが、ここまでには熱い思いを抱えてしまった千秋は、このようにしか生きるすべがなかったのかもしれないという必然も感じます。

子どもたちの世代、そして孫の世代

そして視点は千秋に移り、物語の中心は蕗子、蘭、菜々美に移ります。
塾に背を向け教師になった蕗子は元八千代塾の講師と結婚し、家を出ています。
蘭は塾の世界に入り、菜々美は日本をとびだします。
三者三様の人生。
ここで思い出すのは、子供達が小さかった頃の、千秋と吾郎の諍いの様子。

「蕗子は賢いから、蘭は強いから、菜々美は誰にでも懐くから。そう言って僕らはうちの子たちをほったらかしてきた。」
「違うわ、私たちがほったらかしてきたから蕗子は賢く、蘭は強く、菜々美は誰にでも懐くようになったのよ。近頃の子供たちが軟弱なのは親があれこれと世話を焼きすぎるせいです。」  

吾郎の指摘の通り、ほったらかした分、子どもたちと千秋の関係にはしこりが残り、特に、すでに物心つくころから苦労してきた蕗子には、母を許せない気持ちができてしまいました。
しかし、千秋の指摘通り、塾に心血注ぐ親の背中をみて育ったから、3人がここまで自立できたといえるのかもしれません。
親が子にどこまで手を書けるのかに正解はなく、振り返って、この2人のセリフはどちらとも正しく響きました。

物語の最後は、吾郎の孫一郎の視点から見た、吾郎のスピーチ。
最後に、吾郎の口から千秋について、改めて語られます。
そこにはもはや千秋に対する感情のわだかまりはなく、ただ、千秋の塾に対するまっすぐな思いが語られます。

おすすめ度★★★★

長編映画のような大作。
読み終わって、本書の主人公は千秋だったと感じました。
昭和と平成という時代を、理想の塾の実現のため走り切った女性の物語。

読んでいて、千秋たちと一緒に、昭和、平成の塾業界を生きた感がありました。
物語の要所要所で登場する塾や、千秋を象徴するみかづきが、印象的でした。 

みかづき (集英社文庫)

みかづき (集英社文庫)

  • 作者:森絵都
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: Kindle版
 

本作品は映像化されています。
かなり見ごたえありそうです。
ちなみに千秋役は永作博美さん。 

みかづき [DVD]

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  • 発売日: 2019/06/21
  • メディア: DVD