どんぐり君とおにぎり君のママの読書日記

アラフォー、2男の母のブックレビューです。読んだ本の簡単な内容・あらすじ・感想をメモしてます。

川上未映子さんの「夏物語」を読みました。~こどもを産むか、パートナーをもつか。子どもを産むということの、女性の人生に及ぼす影響の甚大さと、女性の自然な生き方とはどのような生き方かを考えさせらる作品。

川上未映子さんの「夏物語」を読みました。 

夏物語

夏物語

 

内容・あらすじ

主人公は現在38歳の夏子。
もしも子供を産むのなら、タイムリミットが近づきつつある年齢です。
 
夏子は、大阪の下町に生まれ、貧しい子供時代を過ごしました。
お母さんはホステスとして働き、父は働かず、姉も自分も小学生の頃から母の仕事を手伝います。
その後、上京した夏子は、現在小説を書いています。
夏子はいつからか、「自分の子どもに会いたい」と思うようになります。
精子提供の方法を探る中、夏子は精子提供で生まれ、本当の父を捜す逢沢潤と出会います。
精子提供で生まれたものの思い。
うつ病の夫と小さな子を抱える職場仲間、紺野さん。
もう人生に男性はいらないというシングルマザーの作家仲間、遊佐。
子育てでクタクタになった同僚を浅はかで身勝手と評する、アラフィフの独身編集者仙川さん。
そして、出産は親たちの「身勝手な賭け」だと言う逢沢の恋人・善百合子。
夏子に、登場人物それぞれの男性感に、感情移入したり共感したりしながら、考えさせられます。
果たしてこどもを持とうするべきか、否か。そもそも生まれることって幸せなのか。

感想

気づけば夏子に没入

生まれ育った環境も、土地も、何か変だなと思ったことに喧嘩になっても食いついてしまう性格も自分とは違うのに、気づけば夏子に感情移入して一気に読んでしまいました。

様々な、違う立場の女性への共感

こどものいる紺野さんに、遊佐。
こどものいない仙川さんに、善百合子。
彼女たちの男性感に、こどもを持つことに対する考えに、その立場だったらそう感じて自然だといちいちうなづかされました。
例えばお酒の入った紺野さんの、滑らかな言語化が心地よいです。
特に、こどもを持つものとして、紺野さんと、 遊佐の雄弁さに、深く響くものを感じました。
 

「でも夫はほんとうになにもしなかったね。それどころかわたしに本当にひどいことをいった。「出産なんか女ならできて当たり前のことで、何いつまで大げさにしんどいしんどいいってるんだよ」…「妊娠も出産もしぜんなことだろ? うちのおふくろも、ほかの人もみんなできてることなのに、おまえはおおげさなんだよ」って言って笑ったんだよ。」

 

「そのときわたしは決めたんだよね。いつかこの男が癌でもなんでもいいから苦しんでるときね、死ぬまぎわにでも隣に立って見下ろして、おなじこといって笑ってやろうって。「癌も病気も自然なことなんだよね。みんな味わってきたことなんだよね。お前は何おおげさにくるしんでんだよ」って」

 

「離婚したときね、家から男がいなくなって、すっごい晴れやかな、それはもう生まれ変わったような気持ちがしたもんだよ。
…自分の生活が変わらない範囲でしか家の事も子供の事もやらないくせに、外では理解のある夫だか父親だかってでかい顔してうっとりしてるの。
…それである日、なんで私は貴重な人生の時間をこんなどうでもいい男のために苛々して過ごしてるんだろうと思ってやめることにしたの」 

子どもをもつということの女性の人生に及ぼす影響の甚大さ。
そして、そばにいるパートナーはその大半が影響をほとんど受けないか、女性に比べあまりに軽い影響しか受けないという事実。
女性は、絶対的な影響の大きさよりも、パートナーが受けている影響との対比に、やられるのかもしれません。
加えて、大半のパートナーは共感力が低く、それに気づきもしないのです。

夏子の答え

以下、ネタバレになります。

夏子は精子提供を受けて子どもを持つ道を選択します。
夏子の性格と、母親・姉・夏子が出会った女性たちの価値観を足し合わせて、この道には納得感がありました。
経済的な問題や、社会的な価値感の問題がなければ、この道を選択したいという女性が結構な数いても不思議はないとさえ感じました。
女性が、一番ストレスを感じない自然な生き方とはどのような生き方か。
読後、考えさせられます。
 
こどもをもつかどうか、パートナーをもつかというテーマが興味深いのはもちろん、夏子と、他の登場人物との会話のリズムが、とても心地よくかんじる作品でした。

おすすめ度 ★★★★★

ベースに圧倒的な語りのうまさがあり、テーマも興味深く、世界十数ヵ国での翻訳決定に十分納得できる文学作品でした。

 

夏物語

夏物語