凪良ゆうさんの「すみれ荘ファミリア」を読みました。
内容・あらすじ
トイレと風呂と台所は共有、朝食夕食付きの下宿屋すみれ荘。
下宿人の美寿々、隼人、青子と管理人代理の一悟は家族のように暮らしていた。
しかし芥という新しい入居者により、皆の知らなかった顔が見えてきて――?(Amazon内容紹介より)
感想
なぜ、芥はすみれ荘にやってきたのか。放火犯はだれか。一見誰もが住んでみたいと思う、シェアハウスすみれ荘に潜む秘密。
病弱で気の弱そうな優男の大家さんと、2人の独身女性と2人の独身男性。
大家の一悟はみんなの食事に気を配り、血の繋がりもないのに(一悟と芥はのちに兄弟であることが分かりますが)、まるで家族かのように仲良くシェアハウス。
恋人と暮らすよりも、家族と暮らすよりも、こういうシェアハウスで暮らした方が楽しいんじゃないかと思わせます。
最初は。
しかし次第に1人1人の心の闇が明らかになります。
身勝手な男性たちを前に、美寿々だす回答
PMSと月経痛に苦しむ美寿々。
命を脅かす病気ではないものの、ひと月の半分を女性ホルモンにわずらわされます。
彼女にとっては普通の状態が人生の半分以下。
著しいLOQの低下です。
優しい男性は美寿々に気を使うことに疲れてしまうし、身勝手な男性は美寿々が具合が悪い時でも自分の世話を焼いてほしいと言います。
後者はいまだに意外と多い。
結局、美寿々が一番楽だったのは、具合が悪い時にコンビニ弁当だけ買ってきてほっといてくれる若い恋人。
具合が悪いときに働かせるのは、言語道断ですが、長く一緒にやって行くんだったら気を使って何かをしてくれなくてもいい。
ただ今は具合が悪いんだということをわかって放っておいてくれるだけで充分。
よい折り合いのつけ方と感心しました。
たくさんの恋人と付き合ってみた美寿々だからこそ、得られた回答なのかもしれません。
著者の筆力
「流浪の月」、「神様のビオトープ」に続き凪良ゆうさんの作品を読むのは3冊目。
毎回、その筆運びのうまさ・滑らかさが心地よいです。
本作で、特にこういう書き方うまいなぁと感じたのは例えば以下。
みんな幸せになりたい。見るに値する夢が欲しい。…いつでも誰かの暮らしを覗ける。それは巧妙にもしくは無意識に美しく演出されていて、何が本当で嘘なのか、少しずつわからなくなっていく。幸せを計る基準が曖昧になっていき、ある日ふと自分の立ち位置を見失う。迷うだけなら切り捨てればいい。けれど、弱いから誰かと繋がっていたい。
笑みを交わし合うそのそこには冷たい悪意の水流が潜んでいる。けれど、不意に真逆の温かい流れともすれ違う。
特に後者、笑みの下の伏流水を連想させる「冷たい悪意の水流」という表現、そして、そのあとの心温まる人と人との交流を髣髴させる「温かい流れ」という言葉、はっとさせられました。
おすすめ度★★★★
小説を読んでいてすごく面白いなというのは、
著者の筆力がすごいなという作品と、
構想(構成やアイディア)がすごいなと思う作品。
凪良ゆうさんの作品もすごく面白いなと感じています。