あらすじ
本書の主人公は赤羽環(あかばねたまき)。
20代の人気脚本家であり、「スロウハイツ」のオーナーです。
「スロウハイツ」を一言で表現するならば、現代版トキワ荘。
手塚治虫や藤子不二雄などの超!著名クリエイターが共同生活をしていたときわ荘と同じく、スロウハイツでは現代のクリエイター達が共同生活をしています。
スローハイツの中で「ときわ荘の手塚治虫」に当たる一番の売れっ子は千代田公輝(チヨダコーキ)。
チヨダコーキは中高生に大人気の作家です。
超人気サッカー千代田公輝、赤羽環、そして彼らを取り巻くスローハイツの住人たちを中心に、物語は進みます。
物語は、漫画家の卵である狩野壮太(かのうそうた)の目線から始まります。
その後、絵を描いている森永すみれ、映画監督の卵・長野正義、チヨダコーキを売り出した敏腕編集者である黒木智志、途中でスローハイツを出ていってしまった円屋伸一のことが、少しずつ明らかになっていくとともに、スロウハイツに新たな住人が入ってきます。
物語には大きな二つの謎が、横たわっています。
コーキの天使ちゃんは誰か
チヨダコーキには筆を折っていた時期がありました。
コーキが書くのをやめてしまったのは、彼の小説の大ファンが殺人事件を起こしたことがきっかけでした。
しかし、匿名の「天使ちゃん」の投書が彼を救いました。
彼は復活を遂げ、再び大人気作家の座に返り咲きました。
匿名の天使ちゃんはいったい誰だったのでしょうか。
大人気漫画「ダークウェル」の作者は誰か
彼らの世界で最も人気がある漫画の一つが「ダークウェル」。
クリエイターである彼らは、ダークウェルの動向を気にしています。
彼らが「ダークウェル」を気にしている理由は、「それが大人気マンガだから」だけではありません。
「ダークウェル」の展開は明らかに連載中のこうちゃんの作品を意識したものなのです。
その内容は次第に酷似してきます。
そんなある時、大人気マンガ「ダークウェル」の原稿がスローハイツに届きます。
スローハイツの住人の中に「ダークウェル」の作者がいる。
住人をお互いを疑います。
この大人気漫画の作者は誰なのでしょうか
感想(ネタバレ含みます)
赤羽環のまっすぐっぷりに惚れる
物語が進むにつれて、赤羽環がチヨダコーキの一番のファンであることが明らかになります。
そもそも、トップクリエイターになるという人生を選んだこと、そして、スローハイツ自体が、チヨダコーキへの愛に端を発したものだったのです。
チヨダコーキは知っていた
さらには、チヨダコーキは赤羽環が自分のファンであること、そして、天使ちゃんであることを最初から知っていたのです。
コーキは環の筋書き通りに事実を明らかにしようと、全てを待ったということでしょうか。
環の愛の大きさと、それを上回るかもしれないコーキの大きさを感じさせます。
ミステリー要素満載
「コーキの天使ちゃん」の正体や、大人気漫画「ダークウェル」の作者は誰かという謎に加え、登場人物たちの気持ちが物語の最後まで明らかにはされていない部分があり、後半は「ああ、そうだったのか」のオンパレードとなりました。
例えば、本書には、環とコウちゃんの出会いのシーンが繰り返し描かれています。
1回目は赤羽環の目線から。
2回目はコーキの目線から。
2回目の、コーキの目線の出会いのシーンを読むことで、1回目の赤羽環目線のコーキの行動が「ああ、そうだったのか」と理解できるようになっています。
伏線の張り方と納得感のある解が鮮やかです。
他の作品との関連
「凍りのクジラ」の芦沢さんが出てきますね!
クリエイターとして大変活躍されているようで、卒業生の活躍を見るような気持ちになります。ほっこり。
他のメディアの作品
本書は漫画化もされているようですね。
確かに漫画家映像化がよく似合いそうな作品だと思いました。
キャラメルボックスの劇もちょっと見てみたかったです。
辻村さんの作品も、もう半分以上読んだでしょうか。
つぎはデビュー作を読んでみようと思います。
おすすめ度 ★★★★